Up | English 「数と量」と線型代数の関係  


    高校数学で扱う主題の中に,「ベクトル・行列」があります。 これは数学の分野の一つである「線型代数」の内容になります。

    線型代数は小・中学数学でやってきた「数と量」と構造的に近いものがあります。 実際,この構造の近さには,理由があります。
    そこで,「ベクトル・行列」の学習は,「数と量」に引き寄せることで容易になるという面があります。
    もっとも,線型代数の方法論は「数と量」の方法論と同じではないので,引き寄せすぎると「数と量」の意味を誤解させることになります。


    線型代数と「数と量」は,同じになるときがあります。
    すなわち,1次元線型空間と<数に対する量>が同じ構造のものになります。 ──数学のことばで言うと,つぎのようになります:
    「<1次元実線型空間>の普遍対象と<実数に対する量>の普遍対象が,同じになる。 それは ( ( , +), +, ( , +, × ) 」
    そしてこれ以外では,線型代数と「数と量」は,(似ているところはあるが) 違うものになります。

    特に,次元が上がるとき,1次元実線型空間で同じになっていた両者は再び分かれます。 ──例えば,2次元実線型空間は,「数と量」では「複素数に対する量」になります。
    さらに,次元が上がるときの両者の変わり方も,ひどく違います。
    線型代数は,一般次元nの記述が可能であることが示すように,本質的な変化はありません。
    「数と量」はそうではありません。 複素数 → 四元数 → 八元数 → 十六元数 のような変わり方をします。そして,複雑さ・難解さをその都度飛躍的に増して行きます。


    以下,線型代数と「数と量」の違いを踏まえつつ,両者の関係を見ていくことにします。

    なお,話に先立って,線型代数と「数と量」の主題の近縁関係を示しておきます:
数と量線型代数
スカラー/行列
量──系 (「長さ」等) とその要素線型空間・ベクトル
位──系 (「高さ」等) とその要素アフィン空間・点
単位基底
単位の変更基底変換
基準原点
量の測定基底ベクトルの1次結合でベクトルを表現
測定値の一意性(→1次元)基底ベクトルによる1次結合表現の一意性 (→n次元)
位の表現座標
量の和ベクトルの和
量の倍(量に対する数の作用)ベクトルに対する行列の作用
2量間の比例関係2ベクトル空間の間の線型写像
比例関数線型写像
比例定数行列