5.6.2 複素数の系の構成



 はじめに,数ベクトル空間 ((2,+),(,+,×),×) の2 の要素に対する回転/倍の作用を定義しよう。

 先ず,集合Tをつぎのように定義する。即ち,+={x∈|x≧0}として,の上の同値関係〜を,
(ρ,θ)〜(ρ′,θ′) ρ=ρ′=0
あるいは
ρ=ρ′かつθ≡θ′(mod 2π)
で定義し,商集合 ()/〜をTとする。

 ここで,ρを数ベクトルの倍,θを数ベクトルの回転角の単位ラジアンに対する値と解釈する。

 このとき,数ベクトル∈2に対する回転/倍の作用は,2の要素 (scost,ssint)(s≧0) に対するTの要素 [ρ,θ] ── (ρ,θ) の属する同値類── の作用 # として,

(scost,ssint)#[ρ,θ]
=((s×ρ)cos(t+θ),(s×ρ)sin(t+θ))

で定義できる。


 ここで,Tをつぎの対応によって2と同一視する:

[ρ,θ] ←→ (1,0)#[ρ,θ]
=(ρcosθ,ρsinθ)  (ρ>0)
このとき,作用#は,2の要素 (x,y) に対する2の要素 (ξ,η) の作用としては,

(x,y)#(ξ,η)=(x×ξ−y×η,x×η+y×ξ)
となる(註1)

 いま,作用素∈2の間の二つの内算法+,×を,つぎのように定義する:

(x,y)#((ξ,η)+(ξ′,η′))=(x,y)#(ξ,η)+(x,y)#(ξ′,η′)
(x,y)#((ξ,η)×(ξ′,η′))=((x,y)#(ξ,η))#(ξ′,η′)    

このとき,
(ξ,η)+(ξ′,η′)=(ξ+ξ′,η+η′)
[ρ,θ]×[ρ′,θ′]=[ρ×ρ′,θ+θ′]
(ξ,η)×(ξ′,η′)=(ξ,η)#(ξ′,η′)
であり(註2),さらに
((ξ,η)+(ξ′,η′))×(ξ″,η″)      
=(ξ,η)×(ξ″,η″)+(ξ′,η′)×(ξ″,η″)
が成り立つ。

 特に,〈作用素としての2の要素〉の+は,〈数ベクトルとしての2の要素〉の+と同じ。〈数ベクトルとしての2の要素〉に対する〈作用素としての2の要素〉の作用#は,〈作用素としての2の要素〉の間の×と同じ。そして,+と×は,加法と乗法の関係にある。

 さらに,(2,+,×) は (0,0) を零元,(1,0) を単位元とする可換体になる。(x,y) の対称元が (−x,−y) で,[r,θ]≠0の逆元が [r-1,−θ]。

 そしてさらに,(2,+,×) は数の系になる。

 いま,(2,+,×) の要素 (ξ,η) に対する (,+,×) の要素ζの作用が

(ξ,η)×ζ=(ξ×ζ,η×ζ)

で定義される系 ((2,+,×),(,+,×),×) において,

1=(1,0),i=(0,1)
とおく。このとき,
(ξ,η)=1×ξ+i×η

特に,(2,+,×) は実数体 (,+,×) の上の二元体。そこで,数の系 (2,+,×) を(“二元数の系”の意義から)“複素数”と呼ぶ。またこの系の中の2と書く。



(註1) (x,y)=(scost,ssint),(ξ,η)=[ρ,θ] とすると,
(x,y)#(ξ,η)
=(scost,ssint)#[ρ,θ]
=(sρcos(t+θ),sρsin(t+θ))
=(sρ(costcosθ−sintsinθ),
  sρ(sintcosθ+costsinθ))
=((scost)(ρcosθ)−(ssint)(ρsinθ),
  (ssint)(ρcosθ)+(scost)(ρsinθ))
=(x×ξ−y×η,y×ξ+x×η)

(註2)
  1. (x,y)#(ξ,η)+(x,y)#(ξ′,η′)
    =(x×ξ−y×η,x×η+y×ξ)
     (x×ξ′−y×η′,x×η′+y×ξ′)
    =((x×ξ−y×η)+(x×ξ′−y×η′),
      (x×η+y×ξ)+(x×η′+y×ξ′))
    =(x×(ξ+ξ′)−y×(η+η′),
     (x×(η+η′)−y×(ξ+ξ′))
    =(x,y)#(ξ+ξ′,η+η′)
  2. ((scost,ssint)#[ρ,θ])#[ρ′,θ′]
    =(sρcos(t+θ),sρsin(t+θ))#[ρ′,θ′]
    =(sρρ′cos(t+θ+θ′),
      sρρ′sin(t+θ+θ′))
    =(scost,ssint)#[ρ×ρ′,θ+θ′]
  3. [ρ,θ]×[ρ′,θ′]
    =[ρ×ρ′,θ+θ′]
    =(ρρ′cos(θ+θ′),ρρ′sin(θ+θ′))
    =(ρcosθ,ρsinθ)#[ρ′,θ′]
    =[ρ,θ]#[ρ′,θ′]