9.2 比例関数を要素とする量
“時間”と“距離”という二つの量の系からの“速さ”という量の系の定立は,時間と距離の比例関係全体が“量の系”として読めることを見出し,かつそのように読む,というものである。この内容は,つぎのように一般化される。
Nを,乗法×が可換な数の系とする。
量の系(Q1,N),(Q2,N)に対し,比例関数:Q1─→Q2 の全体をHom(Q1,Q2)で表わす。
Hom(Q1,Q2) の加法+を
f+g:x f(x)+g(x)
で定義し(註1),Hom(Q1,Q2) の要素fに対するNの要素ξの作用f×ξを
f×ξ:x f(x)×ξ
で定義する(註2)。
このとき,系 ((Hom(Q1,Q2),+),(N,+,×),×) は量の系になる。──単位ui∈Qi(i=1,2)に対しu(u1)=u2 で定まる比例関数u∈Hom(Q1,Q2) が,これの単位になる(註3)。
例えば,“速さ”の系は,量の系としての“時間”の系 ((Q1,+),(+,+,×),×) と“距離”の系 ((Q2,+),(+,+,×),×) に対する,量の系 ((Hom(Q1,Q2),+),(+,+,×),×) と解釈できる。
(註1) (f+g)(x×ξ)=f(x×ξ)+g(x×ξ)=f(x)×ξ+g(x)×ξ=(f(x)+g(x))×ξ=(f+g)(x)×ξ。
(註2) (f×ξ)(x×η)=f(x×η)×ξ=(f(x)×η)×ξ=f(x)×(η×ξ)=f(x)×(ξ×η)=(f(x)×ξ)×η=(f×ξ)(x)×η。
(註3) (1) f∈Hom(Q1,Q2) に対し,f(u1)=u2×ξとf=u×ξは同値。よって,関数u*:
Hom(Q1,Q2) ─→N;
u×ξ ξ
が得られ,かつこれは1対1対応。
(2) (f×ξ+f×η)(x)=(f×ξ)(x)+(f×η)(x)=f(x)×ξ+f(x)×η=f(x)×(ξ+η)=(f×(ξ+η))(x)。よって,f×ξ+f×η=f×(ξ+η)。特に,u*(u×ξ+u×η)=u*(u×(ξ+η))=ξ+η=u*(u×ξ)+u*(u×η)。
(3) ((f×ξ)×η)(x)=(f×ξ)(x)×η=(f(x)×ξ)×η=f(x)×(ξ×η)=(f×(ξ×η))(x)。よって,(f×ξ)×η=f×(ξ×η)。特に,u*((u×ξ)×η)=u*(u×(ξ×η))=ξ×η=u*(u×ξ)×η。