“標準的な計量”の明示的定義は,明示的に定義されている“標準的な基底”に対してなされます。“標準的な計量”の明示的定義の前提は,“標準的な基底”が明示的に定義されていることです。
しかしまた,“標準的な基底”の“標準的”は,計量形式Qによって説明される他ない。
実際,わたしたちの“標準的な基底”は正規直交基底──“要素のベクトルの長さが1で,どの二つの要素も互いに直交している基底”──であり,それは“標準的な計量”Qに対し条件:
(*) Q(ui)=1,B(ui, uj)=0 (i≠j)
を満たしている基底{u1,・・・・,un}のことです。
そして,“標準的な計量”Qは正規直交基底{u1,・・・・,un}に対し
(#) Q(Σ{ui×ξi | i } ) = Σ{ξi2 | i }
で定義されるが(註),これは{u1,・・・・,un}の“正規直交”を説明する計量に他なりません。──実際,条件 (*) は (#) を含意しています。
計量の実践は,“標準的な基底"(“モノサシ")の上で行なわれる。そして“標準的な基底”をつくるのも計量です。
そこで,計量の構成的な記述は循環論法になる──特に,それは論理的な記述になりません。
そこで,循環論法を出現させないために“標準的な計量”と“標準的な基底”の概念を相互依存的なものとして同時に定義してしまうというのが,このときのテクニックになります。ここでは,“標準的な計量",“標準的な基底”の内容にほおかむりすることで,論理が保たれています。
“標準的な計量",“標準的な基底”は,実践的知識です。
数学はこれを構成しない(できない)。
(註) この形式は,経験的ないし論理的事実としての“ピタゴラスの定理”の拡張。