Up 各様モンスターが論点を攪乱 作成: 2012-01-12
更新: 2012-01-20


    「かけ算の順序」論争は,つぎの2つの思考回路の間の論争である:
    1. 遠山の「1あたり量 × いくつ分」を自分の立場とする遠山主義
    2. 1あたり量 × いくつ分 は,なぜこの順序でなくてはならないのか?」から「かけ算に順序はない」に短絡するモンスター
    そしてこの基本構図に,<論点の攪乱>といった格好で,各様モンスターが彩りをつけていく。
    例として,ここでは特に目立つ二つのタイプのモンスターを,以下に示す。


    (1)いくつ分 × 1あたり量 の順序もあり」の理屈がモンスター

    例えば,言語相対論を持ち出してくるモンスター:
      作用の記述「Aに,Bを作用させる」は,別の言語では「Bを作用させる,Aに」の並びになる。
      かけ算の順序は,これと事情が同じだ。
      だから,かけ算に順序はない。

    このモンスターの所以は,つぎの2つ (定義と推論) の区別を知らない,あるいは区別できないことである:
    1. 記号「×」の定義──つぎのどちらを「×」の文法として採用するか:


    2. 推論が積の式を導く

    記号「×」をはさむ2数の順序が任意になるのは,Aの場面である。 この場面だと,順序の<取り決め>の恣意性を議論することが意味をもち,言語相対論にも出る幕がある。
    しかし,「×」の文法をいったん取り決めたら,以降,この取り決めを遵守することになる。 ──数学とはこういうものである。
    そして,推論が積の式への還元であるとき,「×」をはさむ2数の順序は一意に定まる。
     ( 問題の論理的還元──例 :「3×2」の立式の場合 )


    (2)こだわるべきではない」のことばの使い方がモンスター

    「かけ算の順序」論争が論争であるならば,それはかけ算の順序が<ある>と<ない>の間の論争である。 しかし現前の論争は,<ある・ない>をきちんと言い切るということがない。
    <ある・ない>をきちんと言い切るとは一つの理論を示すことであるが,理論レベルで<ある・ない>を主張しているわけではないので,こうなるのである。

    そこで,どんなもの言いになるか?
    順序にこだわるべきではない」のもの言いになるのである。

    こだわる」は,この「かけ算の順序」論争の場合だと,本来つぎのように使うことばである:
    かけ算の順序は<ある>と<ない>のどちらが正しいのか?に,こだわりをもつ。
    正しいのはこの立場であるが,この立場が択られるかどうかについてはこだわらない。
    そして,このときの「正しい」は,数学の上で決着される「正しい」である。

    しかし,「かけ算の順序」論争には,数学がない。
    数学をもっていないので,順序の<ある・ない>が言えない。
    そこで,「こだわるべきではない」を,便利な言い回しとして使う。
    そして,このことばの用い方がおかしいことに,自分では気づかないのである。