Up | はじめに | 作成: 2011-08-01 更新: 2011-08-06 |
物理計算で この式の中の「×」は,数の「×」ではない。 実際,数の「×」は,数の系 (N, +, ×) を構成する要素であり,始集合 (定義域) が積集合 N×N で終集合 (値域) がNの関数である。 一方「2個/皿 × 3皿 = 6個」の「×」は,関数としては,始集合が<皿の枚数とリンゴの個数の間の比例関係>の集合と<皿の枚数>の集合の積,そして終集合が<リンゴの個数>の集合である。 「2m/秒 × 3秒 = 6m」の式が物理計算でふつうに使われ,使えているということは,これに理屈があるということである。 そしてこの場合,理屈があるとは,これに応じる数学があるということである。 この数学を示したのは,わたしの認識しているところでは,小島順である。 1970年代後半,小島は「量の数学」をテーマにした一連の論文を『数学セミナー』誌 (日本評論社) に発表する。 そしてその中に,「量の積」を回収する数学としてテンソル積を論ずるものがある。
「量の数学について」, 数学セミナー増刊, シンポジウム数学1 (数学と教育) (1980.4), pp.137-152. しかし,「量の積」をテンソル積に回収する論は,「数は量の抽象」の唱える「数の積は量の積の抽象」を支持するものにはならない。 テンソル積は線型空間をベースにした複比例関係の話であるから,「数は量の比」の論になってしまうのである。 そのせいかどうか,「数は量の抽象」の立場から「2個/皿 × 3皿 = 6個」や「2m/秒 × 3秒 = 6m」の式を立てる者が併せてテンソル積の話に言及するというのには,今日出会っていない。 もし世代忘却というものがあるとすればもったいない話なので,「2個/皿 × 3皿 = 6個」「2m/秒 × 3秒 = 6m」の式を回収する数学になるところのテンソル積を,ここに改めて紹介する。 |