- 「獲得形質の遺伝」?
- 「獲得形質の遺伝」の含蓄
- 表現型が遺伝するとは,表現型が生殖細胞に伝わるということ
(どうやって伝わる?)
- 精子は,DNA だけ
よって,表現型が生殖細胞に伝わるとは,DNAに変化が起こるということ
(どんな変化?)
- 確認:「獲得形質の遺伝」は否定されてきた
- 身体の諸器官 (体細胞) で起きた適応的な変化は,生殖細胞には伝わらない。
- 「獲得形質の遺伝」は,分子遺伝学的説明が存在しないのが弱点
- そもそも,「獲得形質の遺伝」を見込みたいのは,獲得形質をよいことのように思うからである。
「子孫に伝わらないのはもったいない」と思うからである。
何かを残して死にたいと思うからである。
しかし,この思いは間違いである。
この思いは,ただの独り善がりである。
自分の獲得形質は,子孫に負わせれば子孫の迷惑となるものである。
よって,遺伝が合理的なメカニズムなら,「獲得形質の遺伝はない」となる。
- 参考/情報サイト
- 参考
『動的平衡2』(福岡伸一, 木楽舎, 2011) の pp.203-214 で,「遺伝子以外によっても遺伝現象は生じる」の論が展開されている。しかしその内容は,「遺伝子以外によっても遺伝現象は生じる」の論になっていない。
例えば,「自分の獲得形質としての<遺伝子のスイッチがオン・オフされるタイミング>は,自分の子に遺伝する」が,つぎのように述べられている:
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「[ヒトとチンパンジーの] DNA情報におけるこの2パーセント足らずの差というのは,特別の遺伝子を持っているか,いないか,といった質的な差ではない。‥‥
仮に遺伝子操作によって‥‥2パーセントの差をすべて書き換えたとしても,チンパンジーはヒトにはならない。
では,いったい何がヒトをヒトをヒトたらしめるのだろうか。
それはおそらく遺伝子のスイッチがオン・オフされるタイミングの差ではないか。‥‥
ここで重要なのは,[サルからヒトへの進化] のような変化は,[突然変異でなくても,遺伝子のスイッチがオン・オフされるタイミングの変化で] 実現できる変化だということである。」
(『動的平衡2』, pp.207-212)
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しかしこれは,「自分の獲得形質としての<遺伝子のスイッチがオン・オフされるタイミング>は,自分の子に遺伝する」の論ではなくて,「自分が親から受け取った<遺伝子のスイッチがオン・オフされるタイミング>は,自分を経て,自分の子に遺伝する」の論である。「獲得形質」と結びつく話ではない。
また,「エピジェネティックス」を「遺伝子以外によっても遺伝現象は生じる」の味方のように取り上げているが,「エピジェネティックス」の捉えもおかしい。
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