「だいよんき Q&A」(http://quaternary.jp/QA/answer/ans012.html) より:
Q. 最終氷期には日本列島と大陸間の海峡は完全につながっていたのですか
A. 非常にむづかしいご質問で、専門家の間でも議論のあるところで、正直に申し上げて「現在の段階では誰一人として断定的にお答え出来る人はいないだろう」と思われます。
なぜなら、最終氷期の最寒冷期(カレンダー年代で2.1±0.2万年前)に海洋全体で海水準がどの位低下したか(最近は120〜135mという説が有力になってきている) 正確にはまだ判っていないし、対馬・津軽海峡(現在の海峡按部の水深は両方共135m) 付近の地殻変動で現在の水深になったのかが不明なためです。
しかし、「可能性として以下のように考えるのが現時点では最も妥当ではなかろうか」ということをご説明申し上げます。
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最終氷期の海水準低下で日本海が閉鎖的になるにつれて、その表層は淡水の流入によって低塩分化していますが、同じ程度の低塩分化はその前の氷期 (約13万年前)とさらにその一つ前の氷期(約34万年前)にも見られます。このことは、対馬・津軽海峡付近の地殻変動が過去34万年の間で著しくなかった、すなわち現在と余り水深が変わらなかったことを示唆します。
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2. |
最終氷期の最寒冷期を過ぎた頃(1.8〜1.7万年前)から、日本海へ親潮が津軽海峡を通って流入して来ますが、低塩分化していた日本海の表層塩分は急速に回復します。このことは、最終氷期の最寒冷期の頃でも津軽海峡はある程度の水深と幅があったことを示唆しており、もし津軽海峡が陸化していたならば、そのような急速な表層塩分の回復はなかったと考えられます。
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3. |
最終氷期の最寒冷期に対馬海峡を通って大陸からいろいろな哺乳動物の侵入はなかったが、結氷した津軽海峡の「氷橋」を渡ってヘラジカやステップバイソンなどの大型哺乳類の移入はあったと考えられる(愛知教育大学の河村善也教授の最近の見解)。
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以上のことから、私は「最終氷期の最寒冷期でも、日本列島と大陸間の海峡は完全につながっていなかった」と考えております。
[参考図書]
多田隆治『日本とアジア大陸を結ぶ最終氷期の陸橋』、小泉格・田中耕司(編集)、講座「文明と環境」第10巻『海と文明』、第1章3節、31-48頁、朝倉書店、1995
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「日本列島人」との関連について
- 「完全に陸続きでなかった」は,「ヒトの移動が無かった」にはならない。
「移動」は,歩行に限る必要はないからである。
即ち,陸を隔てる海の幅が狭ければ,舟 (の類) に乗って対岸に着ける。
漂流して着いてしまうこともある。
そして「海水準低下」が,まさしくこの状況だったわけである。
- 「日本列島人」に至る「ヒトの移動」は,「1万年で千キロメートトル」くらいのスケールで考えるものである。
1年換算で,百メートル。
これは,「移動」と呼ぶようなものではない。
「結果的に移動していた」の類である。
「ヒトの移動」は,「移動」ではない!
- 参考/情報サイト
- 参考文献
- 湊正雄監修『目でみる日本列島のおいたち──古地理図鑑』, 築地書館, 1978.
- 堤 之恭,『絵でわかる日本列島の誕生』(KS絵でわかるシリーズ), 講談社, 2014
- 平 朝彦,『日本列島の誕生』(岩波新書), 岩波書店, 1990
- 米倉・貝塚・野上編, 『日本の地形1 総説』, 東京大学出版会, 2001
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