Up 「ド・ブロイ波」 作成: 2020-01-11
更新: 2020-01-13


    水分子の群集 (「水」) は,波を現す。
    気体分子の群集 (「空気」) は,波を現す (音波はその一つ)。
    よって,電子の群集 (「電子線」) が波を現したからといって,それ自体は驚くものではない。

    ド・ブロイは,「電子線が波を現す」のインスピレーションを持った。
    インスピレーションのもとは,「光子」の定義ということになるつぎの式である:
        E = hν, p= h/λ
         h : プランク定数
    ここで,E, pは光子のエネルギーと運動量,ν, λは光線 (光子の群集) の振動数と波長。

    ド・ブロイは,「電子」に対してこれとまったく同じ式を立てた。
    「光線=光子の群集」を「電子線=電子の群集」に換え,E, pを電子一粒のエネルギーと運動量,ν, λを電子線が現す波の振動数と波長に,それぞれ読み換えたのである。


    ド・ブロイが提起した「電子線が現す波」を実証する方法は,電子線の回析・干渉の観察である。
    光線と事情が異なるのは,E, pが大きいのでひじょうに波長の短い波の検出になることである。それは容易なことではない。
    しかし,C.J.Davisson & L.H.Germer (1927) や G.P.Thomson (1937) によって,この波の検出が成る。

     註: 細かいことを言うと,「実証された」とは「実証が成ったと研究グループ内で受け容れられている」である。


    「ド・ブロイ波」は,「E = hν, p= h/λ」で定義される波である。
    「ド・ブロイ波」の提起は,結局,この定義の提起である。
    そしてこの定義は,適用を「電子」に限る理由はない。
    実際,つぎが提起される:
      運動する粒子 [の群集] は,ド・ブロイ波を現す

    そしてこの波を「物質波」と呼んだ。
    こうして「ド・ブロイ波」は「物質波」の意味になる。
    「物質波」は,O.Stern によるヘリウム原子線や水素分子線の回折の実験 (1929) により,存在が実証されたとなっている。


    しかし,物質の流れなら何でもド・ブロイ波を現すというわけではない。
    斜面の上を流れる砂は,ド・ブロイ波を見出そうとする対象ではない。

    電子線は,ド・ブロイ波を現す。
    これは反照的に,電子線が独特な「電子の群集」であることを示す。
    電子線は,電子のエネルギー,運動量が均一であり,そしてその「群集」はいわば「整列」なのである。

    よくよく吟味すべし:
    ド・ブロイ波の条件「E = hν, p= h/λ」は,「粒の群集」の「粒」のタイプと「群集」のタイプを限定するのである。

    では,その「粒」のタイプ, 「群集」のタイプはどんなか?
    わからない。
    量子力学は,この問題を考えないことにして先に進む。
    ──量子力学とはこのようなものである。