|
織田一朗『時計の科学』(ブルーバックス B-2041), 講談社,2017. pp.216-217.
300億年に1秒の誤差とは、どのような世界なのでしょうか。
宇宙の歴史でさえ、まだ138億年ですから、人間の生活の中での誤差は、ほとんど無視できるレベルになります。
しかし、これだけ高精度の時計があれば、新たな世界が見えてきます。
例えば、アインシュタインは相対性理論の中で、「時空の歪み」の存在を説きましたが、それを現実に立証できるのです。
アインシユタインは、「重力の少ない方が、時間の進み方が速い」と主張していますので、高さの異なる所に置かれた2つの時計の時間の進み方は、厳密には異なるはずです。
そこで、2011年に東京大学とNICTがそれぞれ所有している光格子時計を光ファイバーで結び、立証実験を行いました。
東大本郷キャンパス(文京区)とNICT(小金井市)の距離は24キロメートル、高度差は56メートルです。
実際に振動数を照合してみると、10-15までのレベルでは差は見られなかったのですが、小数点以下16桁で2,6ヘルツの差を測定できました。
18桁の精度を持つ光格子時計同士であれば、1センチメートルの高度差でも時計の時間差を計れるそうです。
また、2016年には、別の場所に置かれているストロンチウム光格子時計の時間差を照合することで、両方の時計の置かれている場所の高度差を測定する実験にも成功しました。
東大本郷キャンパスの1台と理化学研究所 (埼玉県和光市) の2台の時計を光ファイバーでつなぎ (直線距離約15キロメートル)、データを照合したところ、理研2台の振動数は 10-18の単位で一致しましたが、東大の時計は 1652.9×10-18だけゆっくり振動したことから、2地点の標高差は 1516センチメートルと算定されました。
この結果は、国土地理院が行っている水準測量の値と5センチメートルしか異なりません。
しかも、水準測量でのデータは、長距離区間になると、短距離区間の測定データをつなぎ合わせるために累積誤差が生ずる可能性があるため、長距離地点間の測定には、光格子時計によるネットワークを活用した測定の方が、優れていると言えます。
「時間」は「時を計る」ことだけではなくなり、「時間精度」は単なる「時間の誤差」を表示する意味ではなくなりました。
|
|
|