乾燥地では、岩石から溶出した塩類(NaCl, CaSO4など)は比較的浅い層に集積している。
そこへ灌漑を行うと、
- 地下に浸透した水が下層の塩類を溶解、
- 塩類を溶解した水が下層から表層に毛管上昇
- 水は蒸発し,塩類が集積する。
塩類を灌漑で洗い流そうとすると、
- 灌漑水の中の HCO3− により,CaCO3 が沈殿
|
和田信一郎『土壌学』, 15. ⼟の劣化と修復, pp.249,250
塩類化が問題なのは,それが植物の⽣育を著しく阻害するからである.
阻害機構としては,
1) ⼟壌溶液の塩濃度が⾼くなると⽔ポテンシャルが低下し,植物の給⽔を妨げる,
2) 特定の塩の集積によって必須元素イオンの吸収が阻害される,
3) ⼟の物理的性質が悪化する,
などがある.
1),2)は集積する塩の種類に関係なく⽣ずるが,3)は特にナトリウム塩の場合に問題となる.
このため,塩類⼟壌を塩性⼟壌(saline soil)とソーダ質⼟壌(sodic soil)に区分される.‥‥‥
⼀般に(⾃然のプロセスによって)⼟に多量に集積する塩類としては,炭酸カルシウム,硫酸カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸⽔素ナトリウム,炭酸ナトリウム等がある.
このうち炭酸カルシウムは溶解度が低く,‥‥ 炭酸カルシウムのみが集積した⼟は塩性⼟壌にはならない.
|
|
|
同上, p.251
ナトリウムイオン濃度が⾼くなると,カルシウムイオンの吸収や輸送が阻害され,カルシウム⽋乏が誘発されることがある.
また,塩化物イオンの濃度が⾼いと,硝酸イオン吸収が阻害されることがある.
⾼濃度の塩化ナトリウムはまた,(リン酸イオン供給能の⾼い⼟壌では)リン酸イオンの吸収を促進し,結果としてリンの過剰症を発症することがある.
|
|
|
同上, p.251
⼟の交換性陽イオンに占めるナトリウムイオンの割合が⾼くなると,さらに別の問題 [ソーダ質⼟壌の問題] が発⽣する.
交換性陽イオンの⼤部分は層状ケイ酸塩鉱物に保持されているが.吸着陽イオンは鉱物粒⼦表⾯にぴったりくっついているのではなく,表⾯からある距離に拡散層を形成して存在している.
この傾向はナトリウムイオンで⼤きく,さらに間隙⽔の塩濃度が低くなるとその傾向はさらに⼤きくなる.
このような現象のため,⼟の交換性ナトリウムイオンの割合が⼤きくなると,吸着体である微細な層状ケイ酸塩鉱物が分散しやすくなる.
分散した粒⼦は,浸透⽔とともに移動して,孔隙を閉塞させる(⽬詰まりさせる).
かんがい⽔に溶解している塩類のうちナトリウム塩の割合が⾼い地域で,その⽔を⻑期間灌漑に⽤いると交換性ナトリウムイオンの割合が上昇し,ある限界を超えると粘⼟粒⼦が分散して⽬詰まりを起こし,⼟壌の透⽔性が著しく低下する.
このような問題は,灌漑⽔の塩濃度が低く,ナトリウムイオンの割合が⾼い場合に起こりやすい.
したがって,津波や⾼潮などによって海⽔を冠⽔し,吸着ナトリウムイオンの割合が⾼くなった⼟壌を修復する場合,低イオン濃度の淡⽔を灌漑すると,透⽔性が著しく低下することが起こりうる.
|
|
|