Up 「少子化」 作成: 2019-07-16
更新: 2019-07-16


    商品経済は,拡大スパイラルを運動する。
    拡大スパイラルが成らないことは,商品経済が成らないということである。

    商品経済の拡大スパイラルには,人口増加が含意される。
    人口増加が成らないことは,商品経済が成らないということである。


    商品経済の拡大スパイラルには,テクノロジーの革新および制度改革が含意される。
    そしていま,医療技術と社会保障制度は,《生まれた子どものほとんどが大人にまで育つ》を実現している。

    ひとは,商品経済の員として生きる。 商品経済の員として生きるのみである。
    しかし,商品経済の員である前に,生物である。

    生物は,繁殖を自己目的化した存在である。
    繁殖は,自分をつなぐことである。
    つなぐ方法は,自分のクローンをつくることである。
    クローンをつくり,そしてこれを成したらすみやかに死ぬ。これが,生物という存在である。

    生態系の安定は,生物種の繁殖の安定である。
    生物種の繁殖の安定は,つぎがこれの内容である:
      一個体が,一生のうちに,《自分のつくったクローンのうち一個が,クローンをつくる者になる》を実現する
    実際,一個以上であることは,その種の個体数が指数関数的に増えていることを意味する。
    ある植物種の一個体が千の数の種子を生産しているということは,種子を生産する成体にまで育つのが千に一つだということである。

    かくして,生物としての人の一生は,つぎのことの実現である:
      《自分の子のうちひとりが,子をつくる者になる》
    そこで,《生まれた子どものほとんどが大人にまで育つ》が実現された社会では,ひとは一人ないし二人の子どもをもうけることで満足する。
    一つのカップルのもうける子どもが一人ないし二人ということである。
    これは,人口が減少するということである。


    商品経済は人口増加が必要条件であるが,別の必要条件である技術革新・制度改革が人口減少を導く。
    この絶対矛盾構造が,「少子化」問題の核心である。

    絶対矛盾構造であるから,「少子化」問題は「生めよ増やせよ」の掛け声では解決しない。
    「子どもを育てやすい環境整備」も(まと)外れである。──ひとが満足する子どもの数が1か2のままであるいじょう。