Up 「女性の社会進出」の文化人類学 作成: 2011-11-24
更新: 2011-11-24


    「女性の社会進出」のことばは,この概念が意味をもつ場において起こる。 意味を持たない場では起こらない。
    このような「場の相対性」を科学するのが,文化人類学である。 翻って,「女性の社会進出」を考えるときは,文化人類学的視点が必要になる。

    「女性の社会進出」は,「外に出て働くのは男で,女は家に閉じこもる」へのアンチテーゼである。
    ところで,「外に出て働くのは男で,女は家に閉じこもる」の意味は,「<男と女>は家の内に封じて,社会の営みの中に現れないようにする」である。
    すなわち,「<男と女>は家の内に封じて,社会の営みの中に現れないようにする」は,可能性として
     
    1. 男が外に出て,女は家に閉じこもる
    2. 女が外に出て,男は家に閉じこもる
    の2つの形になるが,「出産・育児」を要素にした場合の<経済性>実現ということで,Aが実際の形になってきたということである。

    「<男と女>を社会の営みの中に現れないようにする」が制度・慣習として存在するのは,<男と女>が共同体の営みを壊すものになるからである。 しかも,<男と女>は生き物の自然であるから,問題はひじょうに厄介である。

    <男と女>が共同体の営みを壊す程度は,どんな共同体であるかに依存している。 20戸規模の集落だと決定的に壊れるが,大都会だと問題にならない,といった具合である。

    石炭の時代,坑夫は「炭住長屋」というものに住んだ。 そこでは,<男と女>の自制に対する違反は凄惨なリンチをもって制裁されたことが,(どこでもそうであったのか一部のことか明らかでないが) 事実としてある。この制裁は共同体の制度として行われていることになる。
    イスラム世界の制度の厳格なところでは,女性はブルカやニカブの着用で,顔・カラダを隠す。 <男と女>の自制に対する違反は,投石刑になる。
    制裁の厳しさは,共同体運営における<男と女>の意味を示唆している。
    女性虐待として話題になった女性器切除の風習も,文化人類学的には,共同体運営における<男と女>の意味を示唆する主題ということになる。


    「女性の社会進出」は,<男と女>に対する共同体の耐性が高まることと相俟っている。
    耐性の内容になるものは,特につぎのようなことである:
     
    • <男と女>を抑制・抑圧する法律の作成
    • <男と女>を自制する道徳観念の醸成・教育
    • カラダの適用としての「草食系化」
    • 仕事における「酒文化」の否定

    ここで「酒文化」が特異にきこえるかも知れないので,説明する。
    日本の仕事社会は,酒を仕事の道具にしてきた。 酒の道具性は,「タテマエを捨てホンネを出せるようにする」である。
    この道具性は,酒の効果である「人間を動物にする」の一面である。 そして,「人間を動物にする」には「人間を男と女にする」が含まれる。
    こういうわけで,「酒文化」は,「女性の社会進出」,特に「女性の昇進」(この意味は,女性が男性の部下をもつこと) にとって,やっかいなものである。 「女性の社会進出」は,仕事における「酒文化」の否定と相俟つものになる。