Up 科目開設の執行作業──「有識者会議」 作成: 2011-02-07
更新: 2011-02-07


    《学生犯罪を2度と起こさないための対策として,「人権・倫理」の科目を開設する》という発想は,教員の中からは出て来ない。 また,教員から支持されない。
    なぜか?
    《学生犯罪を2度と起こさないための対策として,「人権・倫理」の科目を開設する》は,論理になっていない。 そして,大学教員は,学問を生業としているので,論理にうるさい。 論理になっていないものを自ら提起・支持することはない。

    そこで,大学経営者は,つぎのようにする:
    1. 外部の権威が《学生犯罪を2度と起こさないための対策として,「人権・倫理」の科目を開設する》を提言してきた,という形をつくる。
    2. 組織に対し,この提言に従うことを命令する。

    「外部の権威」は,この場合「有識者会議」である。
    実際,「有識者会議」は経営の定石の一つであり,このような場合に用いる。
    特に,「有識者会議」は,これの意味を額面通りに受け取るものではない。
    このことは,「人権・倫理」の科目開設の流れを考える上で重要な点になるので,少し詳しく触れておくことにする。


    一般に、「有識者会議」は、政策執行部の御用機関である。 すなわち、執行部の意思を受けて作業する機関である。
    執行部の意思を表わそうとするとき、これの理由づけを権威づけも兼ねて考えることになる。 このとき「有識者会議」が用いられる。

    有識者会議の機能は、ゼロから議論を興すことではなく、執行部の意思を「報告書」という形の文書にすることである。 有識者会議に係わるとは、この機能を共通認識にもつということである。

    有識者会議は、所期の方向とは違う方向に進んでしまっては困る。 そこで、自ずと運用方法が定まってくる。
    その運用方法は、だいたいがつぎのようである:

    1. 委員の選定
      • 議長に就かせる者を、執行部の意思通りに会議を進める者として、択ぶ。
      • 「会議が所期の方向に進むことを妨げない」という意味で「適切」なメンバーを択ぶ。
    2. 第一回会議で、議長予定者を議長に就かせる。
    3. 各会議に対し、執行部で会議次第および資料を作成し、所期の手順で会議が進行するよう議長に手配する。
    4. 会議次第は、時間割でつくる。
      • 執行部からの議題説明・資料説明
      • 委員を一巡する形で、一人ひとり意見を述べる
      • 若干の意見交換
      • おおむね原案了承の形で会議終了

    御用会議運用の要諦は、原案了承の雰囲気を導くことである。
    会議の時間配分は、執行部からの説明と委員一人ひとりの意見陳述で会議予定時間の多くが費やされる具合に、つくられる。 委員は、この時間消化の形を見て、会議の空気を察知するに至る。すなわち、これが原案了承の会議であること、お膳立てが既に出来上がっている会議であることを、自ずと察知する。 こうして、全員が会議の空気を読むという力学場が醸成される。 以降、会議は原案了承で終了するものとなる。

    執行部は、《有識者会議が提案してきた施策を実行する》というポーズをとる。 しかし事実は、自分が行おうとする施策を、有識者会議に言わせているわけである。 執行部の主体転化の手法 (本体を隠す手法) として使われるのが、有識者会議なのである。


    誤解の無いよう強調するが,以上の押さえは,良い悪いを論じるためではない。
    「有識者会議」は,経営の定石である。 経営者は,自分の意思を通す方法として「有識者会議」が使えると思えば,これを使う。 それだけのことである。