Up 「蜘蛛の糸」 作成: 2010-01-21
更新: 2010-01-21


    「教員の業績評価」導入を目指す北海道教育大学は,いまは最終的「パブリックコメントの募集─回答」にまで到達し,後は業績評価制度を実施するだけとなっている。
    ここに,「パブリックコメント募集」に返された教員の意見とこれに対する作業班の回答が,資料として配布されている。 いろいろな読み方ができて,組織研究の立場からはたいへんおもしろい。

    ここでは,回答の文言から窺える作業班の微妙な立場というものを,考えてみる。

    教員の意見は熱く,作業班の回答は引いた姿勢のものになっている。
    そのような回答のなかに,「業績評価は,中期計画・中期目標で約束しているものである」というエクスキューズが出てくるところがある。 このエクスキューズは,しかし,回答全体を通じた主調になっている。 「教員の指摘する矛盾・欠陥は百も承知だが,中期計画・中期目標で約束しているのでやるしかない」が,作業班の置かれた立場になっている。

    欠陥の指摘・改善点を提案する教員は,自分の得点が高くなる形を述べることになる。 そしてこれは,他を相対的に低くする形を述べていることになる。 また,他を絶対的に低くする形を述べているものもある。
    作業班は,教員の<われ先に>の様を自分たちがつくり出してしまったことを見る。

    ここで,芥川龍之介の『蜘蛛の糸』が連想されてくる。
    蜘蛛の糸を垂らした釈迦は,自分の軽率を見て,糸を切る。
    蜘蛛の糸は,垂らしてはならないものなのである。

    「業績評価」では,蜘蛛の糸を切る者は出て来ない。
    このストーリーは,<われ先に>が招くことになるものを予感させて終わる。