Up 「新自由主義」の混乱 作成: 2010-03-09
更新: 2010-03-09


    自由主義とは,つぎの考え方である:
      <主体の行動>の系に,与条件化での最適の形を得させる方法は,<主体の行動>を制御しないこと。 ── <主体の行動>を制御しようとすると,酷いことになる。
    <主体の行動>の系は,われわれのとらえることのできない微妙なバランスの上に成り立っていて,<主体の行動>を制御しようとすれば,酷いことが起こる。 「酷いこと」とは,中央指導という独善 (素人考えとミスリーディング) であり,それから導かれる全体主義・玉砕主義であり,そしてこれを進める官僚主義といったものである。

    このメカニズムを説いた著名経済学者に Hayek がいる。

    ここしばらく「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・グローバリズム」が流行った。 これの信奉者に「新自由主義者」がいる。 そして Hayek は,「新自由主義」のイデオローグということになっている。 そこで「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・グローバリズム」がダメになると,Hayek が元凶のようにも見られてくる。
    しかし,Hayek と新自由主義者 (Hayek主義者) を同じに見るのは当たらない。

    自由主義の考え方は,「<主体の行動>の系に,与条件化での最適の形を得させる方法は,<主体の行動>を制御しないこと。」である。 ところが,「新自由主義者」がやっていることは,与条件の変更である。
    すなわち,「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・グローバリズム」を与条件にする。 そしてこのとき,<主体の行動>の系は,この与条件への適応運動を新たに開始する。

    ここでよくよく理解しなければならないことは,「与条件を変更して,新しい適応運動を開始させる」ことは,「改善・改良」とは関係ないということである。 実際,新たな最適形に至るまでの,長い苦しい道のりが開始される。そして,その最適形は「改善・改良」とは無関係である。

    わかりやすい例をひとつ。
    ここに熱帯雨林がある。 これをすべて伐採する。
    すると,これを与条件とする新しい適応運動を,自然系が開始する。 砂漠化し,砂漠に生きる生態系がつくられる。
    この運動は,<与条件に対する適応運動>である。 しかしこのことを指して,「熱帯雨林の自然系が砂漠の自然系に改善・改良された」とは言わない。

    同様に,「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・グローバリズム」は,「改善・改良」とは関係が無い。


    くどくなるが,再度強調する。
    自由主義の考えは,つぎのものである:
      「<主体の行動>の系は,与条件に対する最適解実現の運動をする。
     この運動を外から制御しようとすると,系は酷いことになる。」
    「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・グローバリズム」を唱える新自由主義者は,与条件を「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・グローバリズム」に変更しようとする。結局,<主体の行動>の系を外から制御しようとするものになっている。 しかもこの変更を実現するやり方として,「危機感」「生き残り」のフレーズによる<煽動>を用いる。
    新自由主義者のやることは,このように,自由主義の考えと根本的にずれている。

    自由主義者は,全体主義を退けるように,新自由主義者による「危機感」「生き残り」の煽動を退けていかねばならない。
      災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候。
    死ぬる時節には死ぬがよく候。
    是はこれ災難をのがるる妙法にて候。 (良寛)