生涯学習教育推進の類型的な論は,「このような社会状況に置かれた人間の行動はこうなるはずだ」という推理を述べる。
そして「このような社会状況」として挙げられるのが,いま/ここしばらく「流行」のつぎのものである:
参考:文科省『平成12年度 我が国の文教施策』
すなわち,生涯学習教育には自己充足支援型と人材育成型の2タイプがあるが ( 生涯学習教育に2タイプ),自己充足支援型に対しては「高齢化社会」が使われる。
「生活にゆとりのある高齢者が,心の豊かさや生きがいを求めて生涯学習教育を求める」というストーリーである。
人材育成型の方のストーリーは,つぎのようになる:
- いまの社会状況は,「能力主義社会」,「高齢化社会」,「IT社会」,「自由競争社会」,「学歴の無効化」のことばで表される。
「能力主義社会」,「自由競争社会」,「学歴の無効化」は,同じ事の別の側面 (異なる切り口)。
「IT社会」は,いま展開されている能力主義/自由競争の環境
「高齢化社会」では,これまで企業が正規の労働力と見なしてこなかった主婦,高齢者(定年退職者),そして外国人が労働参加し,そしてそこでは能力主義が貫徹される。
- これらは,生涯学習教育の需要を生む。
なぜなら,この状況では,個人は能力を磨くための投資を惜しむわけにはいかない。
そこで特に,
- 生涯学習教育という形の,
- 能力を実質的につける/磨くことのできる,
- そしてまた,入門,リフレッシュ,リカーレント,技能向上といった学習目的に応える
教育への需要が高まる。
以上のストーリーは推理である。
「ものは高いところから低いところに落ちる」並みの単純な論理の推理であり,机上論である。
この種の推理はたいていあたらない。
なぜなら,社会状況,そしてその中での人間の行動は,はるかに複雑であるからだ。
──しかも,この推理にはもともと「そうあって欲しい」の思惑が入っている。
註 : |
単純な推理で社会の出来事が予見できるなら,すべての事業が成功していなければならない。
しかし,「自分は違う」とばかりに複雑系を単純に解釈し,そして間違いをおかすことが,いつも繰り返される。
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