Up 平成23年度中学校学習指導要領 「標本調査」 作成: 2014-06-07
更新: 2014-06-07


    平成23年度の中学校学習指導要領改訂で,「標本調査」が第3学年の内容にされることになった。

    中学校学習指導要領 数学

    第2 各学年の目標及び内容
    [第3学年]
    1. 目標
      (4)母集団から標本を取り出し,その傾向を調べることで,母集団の傾向を読み取る能力を培う。

    2. 内容
      D 資料の活用
      (1)コンピュータを用いたりするなどして,母集団から標本を取り出し,標本の傾向を調べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解できるようにする。
        ア 標本調査の必要性と意味を理解すること。
        イ 簡単な場合について標本調査を行い,母集団の傾向をとらえ説明すること。
      〔用語・記号〕
        全数調査


    中学校学習指導要領解説 数学

    第3節 各学年の内容
    [第3学年]
      D 資料の活用
      (1) コンピュータを用いたりするなどして,母集団から標本を取り出し,標本の傾向を調べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解できるようにする。
      標本調査の必要性と意味を理解すること。
      簡単な場合について標本調査を行い,母集団の傾向をとらえ説明すること。
      〔用語・記号〕
         全数調査

      中学校数学科において第1学年では,目的に応じて資料を収集して整理し,ヒストグラムや代表値を用いて資料の傾向を読み取ることを学習している。また,第2学年では,多数回の試行を行って資料を集めることにより,不確定な事象の起こりやすさに一定の傾向があることを調べる活動を通して,確率について学習している。
      第3学年では,これらの学習の上に立って,母集団の一部分を標本として抽出する方法や,標本の傾向を調べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解できるようにすることがねらいである。

      標本調査の必要性と意味
      第1学年においては,すべての資料がそろえられることを前提に,ヒストグラムや代表値を用いて資料の傾向を読み取ることを学習してきた。しかし,日常生活や社会においては,様々な理由から,収集できる資料が全体の一部分に過ぎない場合が少なくない。例えば,社会の動向を調査する世論調査のためにすべての成人から回答を得ることは,時間的,経済的に考えて現実的ではない。また,食品の安全性をチェックするために,製造した商品をすべて開封して調べることはしない。このような場合,一部の資料を基にして,全体についてどのようなことがどの程度まで分かるのかを考えることが必要になる。このような考え方から生み出されたのが標本調査であり,全数調査と比較するなどして,標本調査の必要性と意味の理解を深めるようにする。

      簡単な場合について標本調査を行うこと
      ここでは,母集団から無作為抽出により標本を抽出することと,標本から母集団の傾向を推定することについて学習する。これらを理解するためには,実際に標本調査を行う必要がある。
      標本調査であるから,ある程度大きな母集団を対象にすることは当然であるが,ここでは生徒が標本を取り出すことが困難とならないように注意する。また,標本調査による推定の結果を評価するために,推定しようとする母集団の性質が求められるか,知られていることも必要である。
      母集団から標本を抽出する場合,注意しなければならないことは,標本が母集団の特徴を的確に反映するように偏りなく抽出することである。別の言い方をすれば,母集団のどの資料が取り出される確率も等しくなるように抽出すること,すなわち無作為抽出を行うことが必要である。ここでは,乱数を利用することにより無作為抽出が可能になることを理解できるようにする。
      例えば,ある英和辞典に掲載されている見出しの単語の数を標本調査で調べることを考える。この英和辞典が980ページであるとすると,乱数さいやコンピュータなどを利用して,001から980までの乱数を発生させ,ある程度の数のページを無作為に抽出する。そして,抽出したそれぞれのページに掲載されている単語の数を調べ,その平均値から,この英和辞典に掲載されている見出しの単語数を推定する。英和辞典に掲載されている見出しの単語の数は,その英和辞典に示されているのが一般的であるから,推定した収録単語数と実際の収録単語数を比較することができる。無作為抽出で取り出すページ数を変えて何回か標本調査をしてその結果を比較したり,最初の10ページを抽出するというように無作為抽出をしない場合と比較したりして,標本調査についての理解を深める。このような経験を基にして,無作為に抽出された標本から母集団の傾向を推定すれば,その結果が大きくはずれる危険性が少ないことを実感できるようにする。

      母集団の傾向をとらえ説明すること
      標本調査により母集団の傾向をとらえ説明することを通して,標本調査についての理解を深める。指導に当たっては,日常生活や社会における事象に関する問題解決を重視し,生徒の活動を中心に展開されるようにする。
      標本調査では,母集団についての確定的な判断は困難である。実際に標本調査を活用する場合には,この点を補完するため,予測や判断に誤りが生じる可能性を定量的に評価するのが一般的である。しかし,ここでは標本調査の学習の初期の段階であることに留意し,実験などを通して,標本調査では予測や判断に誤りが生じる可能性があることを経験的に理解できるようにする。
      生徒が導いた予測や判断については,生徒が何を根拠にしてそのことを説明したのかを重視し,調査の方法や結論が適切であるかどうかについて,伝え合う活動などを通して共通理解を図るようにする。
      例えば,「自分の中学校の3年生の生徒200人の,一日の睡眠時間は何時間くらいだろうか」を考える場合,次のような活動が考えられる。
      1. 「一日の睡眠時間」の意味を明らかにして(昨日の睡眠時間か,過去1週間の平均睡眠時間かなど)質問紙を作成する。
      2. 標本となる生徒を抽出し調査を実施する。
      3. 調査の結果を整理する。
      4. 調査結果を基にして,全生徒の睡眠時間を予測して説明する。
      この場合,4 で説明することには,予測だけでなく,1 から 3 のような母集団の傾向をとらえる過程が含まれている。また,これらを基に,標本の抽出の仕方や予測の適切さについて,学級全体で話し合う。
      このように,標本調査を行い,母集団の傾向をとらえ説明することを通して,生徒が標本調査の結果や,それに基づく説明を正しく解釈できるようにする。例えば,調査する地域や集団が偏っていないかや,アンケート調査の質問が誘導的でないかなどにも目を向けられるようにする。母集団の傾向をとらえ説明することを通して,標本調査を活用できるようにし,不確定な事象に関する情報に惑わされないようにすることが大切である。

      コンピュータなどの利用
      コンピュータなどを利用する場面としては,第1学年と同様に大量の資料を整理する場合や,大きな数,端数のある数を扱う場合の作業の効率化が考えられる。それ以外にも,母集団から標本を抽出する際に必要な乱数を簡単に数多く得るために利用することができる。この際,乱数さいなども利用すれば,母集団のどの資料も恣意性が無く選ばれることを直観的に理解しやすくなる。また,インターネットなどの情報通信ネットワークを利用して資料を収集したり,様々な標本調査とその結果について調べたりすることもできる。この場合,情報の信頼性等について事前に検討しておくことが必要である。また,生徒自身が予測や判断の前提として,資料の信頼性に目を向けられるようにすることも大切である。