Up エントロピー弾性 作成: 2017-07-03
更新: 2017-07-05


    ゴムには「温めると短くなる」という性質がある。

    高分子化合物を構成する分子について,つぎのように考える:
    1. 二つの構造a,bからなり,それぞれエネルギー0,εを持つ。
    2. 分子間では相互作用によるエネルギーのやりとりがあり,これにより分子がa型になったりb型になったりする。
    3. a型分子の縦方向の長さは,b型分子に比べて大きい。

    これは,ゴムは「エネルギーが増えると短くなる」ということである。
    ゴムの「温めると短くなる」は,この「エネルギーが増えると短くなる」に対応していることになる。


    いま,この系の「乱雑さ」を,「a型分子とb型分子の数の偏りの無さ」で考える。
    偏りは,
    b型分子が0個のとき,乱雑さは最も小さい。
    b型分子が N/2 個のとき,乱雑さが最も大きい。

    こうして,乱雑さは,b型分子の個数で表現される。
    そこで,「b型分子がn個のとき,乱雑さはn」と定める。

    ここでさらに,「乱雑さ」を「熱エネルギー」と言い換える。
    どうして「熱エネルギー」のことばなのか?
    ひとは「熱」を「エネルギー」だと思って,「熱エネルギー」のことばをよく使ってきた。
    しかし,「熱」はエネルギーの現象のであって,エネルギーではない。
    「熱エネルギー」は,本来,無くてよいことばである。
    しかしひとには,「エネルギーは,取り出せないエネルギーであるところの熱になる」の想いがある。
    この想いを汲み取ってあげることにする。
    そうすると,「熱エネルギー」のことばは,上の形だと,なんとか収まることになるのである。


    続けて,系の「状態」を,「乱雑さ」から導かれるものと考える。
    即ち,乱雑さがn (「b型分子がn個」) のときの系の状態 W(n) を,
      N個の分子のうちどのn個の分子をb型にするかの場合の数
        W(n) = C = N! / (n! (Nーn)! )
    で定義する。

    さらに,W(n) の対数
      S(n) = log W(n) = log N! ー log n! ー log (Nーn)!
    をとって,これを「熱エネルギー がnのときのエントロピー」と呼ぶ

    なぜ WではなくSを「エントロピー」と呼ぶことにするかというと,単に Wよりも Sの方が扱い易いからである。
    W(n) は一般にひじょうに大きな数になる。
    大きな数を扱うときの常套は,「桁数」に言い換えることである。
    (対数とは,桁数のことである!)

    実際,これで (「乱雑さ」と「状態」の対応であるところの) 熱エネルギーとエントロピーの対応グラフが,以下のように書ける。


    スターリングの近似公式を用いて,
      S(n) = (N log N ー N) ー (n log n ー n) ー ((Nーn) log (Nーn) ー (Nーn) )
        = N log N ー n log n ー (Nーn) log (Nーn)
    さらに変形して
        = ( (Nーn) log N + n log N ) ー n log n ー (Nーn) log (Nーn)
        = ー n log n + n log N ー (Nーn) log (Nーn) + (Nーn) log N
        = (ーn) ( log n ー log N ) ー (Nーn) ( log (Nーn) ー log N )
        = ーn log n/N ー (Nーn) log (1ーn/N )
        = N ( ーn/N log n/N ー (1ーn/N) log (1ーn/N )
        = ーN ( p(n) log p(n) + (1ーp(n)) log (1ーp(n) ) )
    ここで,n/N (全分子数に対するb型分子の数の割合) をp(n) とおいた:
      p(n) =n/N

    こうして,Sのグラフは,
      y=x log x + (1ーx) log (1ーx)
    のグラフがこれの雛形になる。


    y=x log x + (1ーx) log (1ーx) のグラフは,つぎのようじなる ( y= (1ーx) log (1ーx) のグラフ):
    そこで,つぎが S = ーN ( p log p + (1ーp) log (1ーp ) ) のグラフ:
    n = H/ε より,
      p= n/N = H/(Nε)
    この関係を使って,上の p-Sグラフを H-Sグラフに書き直すと:

    「エントロピー増大則」を満たすのは,つぎの部分:

    温度β = dS/dH をグラフに記入するならば:


    また,このグラフから,温度βと熱エネルギーHの対応グラフも読み取れる:
      β=0 のとき, H = Nε/2
      βの増加と Hの減少が対応
      β= ∞ と H = 0 が対応

    なお,βとHの対応式は,H = Nε/ (eεβ +1 )
      これの計算を,以下に示す:
        β = dS/dH
          = dS/dp × dp/dH
          = d(ーN (p log p + (1ーp) log (1ーp) )/dp × d(H/(Nε))/dH
          = ーN ( ( log p+ p・1/p ) + ( (ー1) log (1ーp) + (1ーp)・(ー1/ (1ーp))) × 1/(Nε) )
          = ーN ( log p+ 1 ー log (1ーp) ー1 ) × 1/(Nε) )
          = ー log p/(1ーp) /ε
        よって,
        log p/(1ーp) = ーεβ
        ⇐⇒ p/(1ーp) = eーεβ
        ⇐⇒ p = (1ーp) eーεβ
        ⇐⇒ p (1+ eーεβ ) = eーεβ
        ⇐⇒ p = eーεβ / (1+ eーεβ ) = 1 / (eεβ +1 )
        p= H/(Nε) より
        H/(Nε) = 1 / (eεβ +1 )
        ⇐⇒ H = Nε/ (eεβ +1 )