- Harrison (1987) の計算:
- 仮定
- どの星も,その大きさと明るさが太陽と同じ
- 1つの星は,平均して 100 立方光年の空間を占有する
太陽から10光年以内の距離に,約10個の星がある
これを,太陽中心の一辺10光年の立方体 (体積 103 立方光年) の中に約10個の星があると捉える。
10個あたり103 立方光年ということで,1個あたり100 立方光年。
- 星の断面積は,1.5兆 km2
太陽の半径は,70万 km
断面席は 70 × 70 × 3.14 (万 km)2 = 15386 億 km2 ≒ 1.5 兆 km2
- 計算公式
- 背景限界距離 = (1つの星の占有する空間の体積) ÷ (星の断面積)
- 背景限界距離が半径の球の中に存在する星の数
= ( 4π × (1つの星の占有する空間の体積)2 )
÷ ( 3 × (星の断面積)3 )
- 解
- 背景限界距離 = 6 × 1015 光年
- 背景限界距離が半径の球の中に存在する星の数 = 1046
- Wikipedia「オルバースのパラドックス」からの引用:
シェゾーは、‥‥ 近距離の恒星の距離 ‥‥ から、星が夜空を埋め尽くすために必要な距離が 6×\(10^{15}\) 光年(6千兆光年)であると推計した。
このいわば星の光における平均自由行程は、背景限界と呼ばれる。
背景限界
恒星の大きさを考慮するとき、‥‥‥ [夜空は] 恒星の表面で埋め尽くされていくことになる。
夜空が星によって埋め尽くされるのにおよそ必要となる距離は上述のように背景限界または背景限界距離と呼ばれる。
これは,粒子が気体などの中を分子と衝突せずに進める平均距離として知られる平均自由行程の概念と,本質的に同等のものであり、以下のように見積もることができる。
地球を中心として半径 r に広がる微小な厚み dr を持つ球殻を考える。
上述のように、そこに含まれる星が空を覆う割合は球殻の大きさ r によらないはずである。
簡単のため、恒星が単位体積あたり n 個の割合で一様に存在するとし、星がすべて断面積 σ(星の半径を a とすれば \( \sigma = \pi a^2 \) )を持つとする。
球殻に含まれる星の単位面積あたりの数は、n に厚み dr を乗じて ndr と期待される。
このとき球殻の全表面積に対するそこに含まれた星の表面の割合とは、単位面積当たりの星の表面積の総和に他ならず、これは星ひとつあたりの断面積 σ をさらに乗じて nσdr となる。
実際これは r に関係しない。
ここで長さの次元を持つ量として
\[
\lambda = \frac{1}{n\sigma }
\]
と置けば、こうした球殻の星は dr/λ という一定の割合で空を覆っていくと期待される。
このとき星が互いに関係なく分布するなら、星は距離に関してこの一定の割合で背景を覆い隠し、背景が指数関数的に少なくなっていくはずである。
実際、距離 r までの星によって覆われていない空の背景の割合を β(r) で表すなら、距離 r, 厚み dr の球殻は新たに全体の β(r)dr/λ だけの割合を覆うと期待されるので、その微小な変化量は dβ(r) = −β(r)dr/λ である。
β(0) = 1 であるから、β(r) は r とともに減少する指数関数、
\[
\beta (r) = e^{-{\frac {r}{\lambda }}}
\]
で表される。
ここで λ は、これらの仮定のもとで空が星に覆われる割合の指数関数的な変化を特徴付ける距離であり、地上から空を見上げたとき視線が星の表面に至るまでの距離の平均値となる。
この文脈では背景限界と呼ばれるが、これは星と星の光における平均自由行程に他ならない。
太陽系近傍の星の密度を参考に、概算値として n = \(10^{−50}\) 個/\(m^3\) ≈ 0.01 個/光年\({}^3\)(およそ一辺5光年の立方体に1つ)、恒星の断面積を σ = \(10^{19} m^2\)(太陽の2倍弱の半径)とするなら、背景限界 λ は λ = \(10^{31}\) m ≈ \(10^{15}\)光年程となる。
この例は18世紀のシェゾーの得た値に近く、現在の知識では実際に観測できる宇宙の大きさよりもおよそ5桁ほど大きい。
加えて、実際の宇宙は銀河系や銀河団に星が密集し、その間には星のない空隙が広がるので、実際の背景限界はこの見積もりよりはるかに大きくなる。
ハリソンは、背景限界として λ ≈ \(10^{−23}\) 光年という値を与えており、これは宇宙の大きさよりおよそ13桁上、すなわち10兆倍の大きさである。
上式から逆に、星の輝く宇宙が地球から背景限界の k 倍の距離まで広がっていると想定すれば、そのとき夜空が星に覆われている割合 α は α = 1 − β(kλ) = 1 − \(e^{-k}\) と求められることになる。
上のハリソンが示す値では k は10兆分の1となるように非常に小さいと考えられるので、指数関数の近似として \(e^{x}\) ≈ 1 + x (x ≈ 0) を取れば、これはおおよそ、
を意味する。
この近似は星の重なりを無視した場合に相当している。
結局、<実際の観測可能な距離と背景限界との比>がほぼ<宇宙の星と暗闇の比>に等しくなる。
この結果は上述のケルヴィンが得た結果に他ならず、これは重なりを無視して一定の割合で背景が減少する場合であることを考えるなら直観的にも理解できる。
このことからパラドックスを逆に考えるなら、我々が実際に見る夜空の暗闇の背景の割合だけ、宇宙は背景限界よりも手前までしか見えていないことになる。
この α ≈ k は太陽の輝きが覆った空と、星空の明るさとの比とも等しい。
すなわち、星が一様に分布し、星の絶対的な明るさが平均的に我々の太陽と等しいとするなら、太陽表面で感じるであろう灼熱の明るさと、実際我々が見る夜空のおぼろげな星明り全体の明るさとの比が、背景限界の距離と星が輝く限界までの距離の比にほぼ等しくなる。
- 参考文献
- Harrison, Edward (1987)
Darkness at Night── A Riddle of the Universe, Harvard University Press, 1987
長沢工[監訳]『夜空はなぜ暗い?──オルバースのパラドックスと宇宙論の変遷』, 地人書館, 2004
- 津村耕司『宇宙はなぜ「暗い」のか?─ オルバースのパラドックスと宇宙の姿』ベレ出版, 2017.
- 引用/参考Webサイト
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