Up 背景限界距離 作成: 2022-06-01
更新: 2022-06-02


    深い森に入ると,森の外が見えない。
    木の幹の重なりが,森の外を見えなくしているのである。
    深い森には,背景限界距離というものがある。

    ここで,宇宙を「星の深い森」に見立ててみる。
    そうすると,背景限界距離が考えられることになる。
    「星の重なりにより,ある距離より遠くは見えない」というわけである。

    本当か?


    太陽から10光年以内の距離に,約10個の恒星がある
    これを,太陽中心の一辺10光年の立方体 (体積 103 立方光年) の中に約10個の星があると捉える。
    10個あたり103 立方光年ということで,1個あたり100 立方光年。

    星の断面積の平均を,太陽の断面積にする。
    太陽の半径は,70万 km なので,その面積は 1.5 兆 km2
      70 × 70 × 3.14 (万 km)2 = 15386 億 km2 ≒ 1.5 兆 km2

    Harrison (1987) は,これを宇宙の星の分布モデルにして,背景限界距離を計算した。
    計算結果は:

    しかし星の数は,1046 個はありそうもない。
    ──恒星に惑星を加えても,そして惑星の衛星を加えても。
      実際,星の分布が「1個あたり100 立方光年」なので,1046 個が占める空間の体積は
          100 x 1046 = 1048 立方光年
      これは,1辺が1016 光年の立方体の体積。
      ところが理論物理学者が計算している「宇宙の大きさ」は,「自分からあらゆる方向に 465億光年」。
      そして 465億光年は,4.65 x 1010 光年。
        「宇宙の大きさ」

    ということで,「星の森」では背景限界は存在しないということになる。



  • 参考文献
    • Harrison, Edward (1987)
        Darkness at Night── A Riddle of the Universe, Harvard University Press, 1987
        長沢工[監訳]『夜空はなぜ暗い?──オルバースのパラドックスと宇宙論の変遷』, 地人書館, 2004