Up 「開かれた大学」 作成: 2006-08-23
更新: 2006-08-23

    法人化が課題になって以降，「開かれた大学」のことばがいたるところに現れるようになった。
    この場合の「開かれた」の意味は，「情報的に開かれた」 (「隠し事をしない」) ではない。

    「開かれた大学」は，生涯学習教育 ("livelong education") の文脈に現れる "open university" から来ている。 ただし，「開かれた」の意味に自ずといろいろ変調がかかることになり，たてまえと本音のところをきちんと区別してこれの理解にかからないと，ことばにただ浮かれる態になる。

      註： 内容/実体のともなわないことばに浮かれることができる。
      これは，ことばの便利なところであり，危険なところである。


    法人化後の大学は，およそ以下のようなことを行う意味で，「開かれた大学」のキャッチコピーを用いている：

    1. 正規学生に対する授業以外の教育業務を増やすことによって，収入を得る

      • 一般者向けの講座開設で，受講料収入を得る：
        • 公開講座
        • キャリアアップ・リカレント教育に関する講座
        • 一般向け教養教育講座
        • 自治体が派遣する研修生相手の研修講座
      • 正規学生向けの授業に，一般者が聴講することを許し，受講料収入を得る
          「社会人/市民聴講生」「授業公開講座」
      • 地域フォーラム
          いまのところは，広報的位置づけにとどまる。将来，収入の方法になることを期待している。
      • 産学公連携の形をとる専門的指導等で，収入を得る：
          産学ないし産学公の連携が自然な形である研究分野の他でも，これを行うようにする。
      • 科目等履修生
          これは，従来型聴講生で，正規受講生と同レベルの知識・学力を持っていることが受講要件となり，これの審査の上で受講を許可される。
          これの受入れを増やす。

    2. 教員の効率的運用 (従来型学部の枠を越えた運用) で，人件費を削減する

      • コア・カリキュラム
      • 共通科目

    3. 学外者を講師に用いる

      • 社会人講師，特任教員
      • 他大学の教員を非常勤で用いる


    ここでは，先ず，つぎの根本的な問題が閑却されている：

        「これら「開かれた大学」は，
        　大学のあり得べき形 (大学の本義/本分に適った形) なのか?        」

    実際，「開かれた大学」は大学観の一つだが，「大学観の一つ」として相対視できる知識（特に歴史的知識）が大学人の多くに欠けている。( 大学論の閑却 ─「大学」知らず)　そして，「これに邁進することがいいことだ」の集団心理に大学中が陥っている。

    「これに邁進することがいいことだ」の集団心理は，「これに邁進するとはどういうことなのか？」という問題を立てることも忘れる。 特に，

        「これに邁進することが，従来の事業とのどのようなトレード・オフを意味するか?」

    という問題を立てられない。
    「従来の事業の横に，も一つ事業を設ける」というイメージでいるわけだ。

      「授業公開講座」の発想がいい例で，正規授業と一般者聴講が同時並立で成立すると思っている。 ( 「授業公開講座」)


    課題が「トレード・オフ」であることを理解できず単に「追加」であるととらえる単純知力は，労働力のとらえかたにもそのまま及ぶ。 すなわち，「現有労働力には余力があり，その余力を追加事業に回すことができる。よって，従来の事業を損なうことはない。」というわけだ。
    また，この考え方は，「油と教員は絞るほど出る」の執行部体質とも密接に関係している。