Up 環とイデアル  


    環・イデアルの初学者は,最初はつぎのように割り切って学習に入るとよい(註)
1. 「環」:「整数全体の系」
2. 「イデアル」: 整数nに対する「nの倍数全体の系」
    「環・イデアル」の話では「多項式環」がすぐに出てくるが,整数で「環・イデアル」のカラダをつくっておけば,「整数と同じ」の感覚で「多項式環」の話についていくことができる。──実際,「環・イデアル」の定義は,この「同じ」を回収しているわけである。

    以下,この読み替えの確認をしていく:

    1. 「整数全体の系」→「環」
    2. 整数nに対する「nの倍数全体の系」→「イデアル」
    3. 素数pに対する「pの倍数全体の系」→「素イデアル」
    4. 「公約数」→「公約元」
    5. 「最大公約数」→「最大公約元」
    6. 「2つの整数の互いに素」→「2つのイデアルの互いに素」




     註: 数学の方法論の一つに,「一般的に語る」がある。
    一般的に語ることは,これまで意識していなかったものの発見になる。 また,バラバラに存在していたものを一挙に整理し,世界を見やすくする。

    「一般的に語る」は数学者の体質になる。
    そこで,数学の授業でも,「一般的に語る」をやってしまう。
    学習者は,その「一般的に語る」が何のことかわからない。
    この学習者の側の「わけがわからない」に対して授業者が鈍感だと,お互い不幸なことになる。

    環・イデアルの授業も,環・イデアルの定義から始められると,学習者にはわけのわからないものになる。
    環・イデアルの授業は,何から入っていくか?
    「環・イデアル」の世界を窺わせること・この世界の概観をもたせること・この世界の意義を感得させることからである。

      註 :「環・イデアル」のことばは,これの内容を表すものではない。「群」「体」と同様,命名に意味はない。 しかし初学者は,こんなことにも混乱し,躓いてしまう。