Up 「半減期」の詭弁 作成: 2011-03-31
更新: 2011-03-31


    「放射能数値安全報道における詭弁」,翻って「放射能数値の危険度の考え方」については,これまでにつぎのテクストで考察してきた:
     
  • 放射能数値安全報道と数学教育の責任
  • 「比例関係」の概念をもっていないのかも知れない
  • 危険下限値と危険甘受上限値
  • 被曝量の概算・予測の方法
  • 政府・マスコミ・学者が「この放射能数値は問題ない」を論ずるとき,そこには《ひとがどんなモデルで<数量計算>を考えようとするか》が,明瞭に観察されてくる。 そしてこれが,「数学教育」を生業とするわたしにとっては,たいへん勉強になるのである。

    この意味で大いに参考になっているTV番組に,フジテレビの朝の「とくダネ!」がある。 これは,「この放射能数値は問題ない」の論を,TV番組の中ではいまのところ最も率直に押し出すものになっている。 よって,ひとの<数量計算>の傾向と力量が,よく観察できるのである。


    本日の「とくダネ!」では,「福島第一原発放水口近くの海水から基準の 3355 倍の放射性ヨウ素131が検出」がテーマになった。 そして,この値がそんなに危険と考えるようなものではないことが,解説された。
    要点はつぎのようになる:
      1. 安全基準値が,ひじょうに低い値に採られている (現実的でない)。
    2. 海に拡散して薄まる。
    3. 半減期が8日なので,着実に減っていく。

    この中では,「半減期が8日なので,着実に減る」が,「ひとの<数量計算>の傾向と力量」の主題になってくる。 ──実際,「半減期が8日なので,着実に減る」は,放射能数値安全論が常套としているものであり,そして間違っている

    以下,「半減期が8日なので,着実に減る」の実際がどうなのかを,見ていく。


    つぎは,「ヨウ素131は半減期が8日」を,初期値をaベクレル (Bq) にして書いたグラフである:

    この減少法則をありがたがるというのは,「福島第一原発放水口近くの海水から基準の 3355 倍の放射性ヨウ素131が検出」を (継続性ではなく) 一回性と受け取っているということである。
    実際,ひとが「継続的」の考え方を苦手にしていて「一回的」で考える傾向があるということは,これまで考察してきたところである。

    「福島第一原発放水口近くの海水から基準の 3355 倍の放射性ヨウ素131が検出」は,本当は,「ヨウ素131は出され続けている」のモデルで考えねばならないものである。
    水道水やほうれん草のヨウ素131の話と同じである。
    そして,「ヨウ素131は出され続けている」のモデルでの問題は,「ヨウ素131の蓄積」である。

      註 : 「福島第一原発放水口近くの海水から基準の 3355 倍の放射性ヨウ素131が検出」は,29日のことである。 本日 31日は,「30日午後同じ地点で採取された海水には,基準の4385倍の放射性ヨウ素131の検出」が報道されたところである。

    連続変化に対する蓄積量を求めるのは難しいので,ここでは,「1日1回,吸気・水・食事でヨウ素131をaベクレル摂取」のときの「ヨウ素131の蓄積」を求めてみる。 これでも計算になるとひどくたいへんだが,グラフの上の手作業 (一目盛りずつズレて現れる半減期グラフを足し合わせる) ならやれる。
    つぎが,このグラフである (赤色の線が蓄積量のグラフ):

    見てのとおり,蓄積の増加傾向はだんだん弱まっていくが,摂取が継続される限り蓄積量は増えていく。
    1日1回 100ベクレルの摂取だと,ヨウ素131の半減期の8日で 500ベクレル以上の蓄積,1/4になる16日だと900ベクレル前後の蓄積になる。

    「1日1回」はもちろん現実的でないし,そしてカラダから排泄される量等を考え合わせねば実際の値にはならないのだが,「摂取・蓄積」の合理的な考え方を指向するという目的では,この単純モデルも有効であろう。